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MEDIA インバウンドマーケティング総合研究所

データで読み解く、2025年のインバウンド需要予測 – 次にブームが来るのはどの国・どの都市か?

【目次】

2025年のインバウンド市場動向:回復期から成熟期への移行と日本の課題

2025年のインバウンド市場は、コロナ禍からの急速な「回復」の段階を終え、いかに持続的に成長するかという「成熟期」へ移行します。世界的な旅行の潮流、日本が持つ独自の魅力、そして観光大国として乗り越えるべき課題を分析し、今後の成長戦略の道筋を探ります。

2024年までのインバウンド回復の現状

パンデミックによって落ち込んだ世界の観光客数は、2023年から2024年にかけて劇的に回復しました。国際観光客到着数はパンデミック前の水準にほぼ戻りつつあります。日本もその例外ではなく、水際対策の撤廃と記録的な円安が強力な追い風となり、訪日客数はコロナ禍前の水準を上回る月が続出しました。

特に、地理的に近いアジア圏からの旅行者がこの回復を力強く牽引しています。

しかし、回復の度合いは国や地域ごとにばらつきがあり、航空便の運航状況や為替レート、各国の経済状況が複雑に影響しています。

世界の旅行者が求める新たなトレンド

2025年に向けて、世界の旅行者のニーズは以下のような新しいトレンドに集約されています。

  1. 「体験」と「交流」の重視(コト消費)
    単に有名な場所を訪れるだけでなく、地域の文化や日常、人々の暮らしに深く触れる「学びの旅」や「コト消費」への関心が非常に高まっています。

  2. 「持続可能性(サステナビリティ)」
    環境への負荷が少なく、地域社会に貢献できるエシカルツーリズムやエコツーリズムといった、責任ある旅の選択が重視され始めています。

  3. 「パーソナライゼーション」
    画一的なパッケージツアーではなく、個人の趣味や関心、旅行のテーマに合わせて細かくカスタマイズされたオーダーメイドの旅行が人気を集めています。

  4. デジタル技術による利便性」
    旅行の計画、予約、現地での移動、決済までをスマートフォン一つで完結できるシームレスでストレスのない体験が求められています。

日本が持つ魅力と乗り越えるべき喫緊の課題

日本は、その魅力の多様性から世界的に高い注目を集めています。

  • 強力な魅力の源泉
    • 文化・自然
      京都の寺社仏閣、富士山、北海道の雪景色といった多様で豊かな景観と文化遺産。

    • 品質・治安
      高いサービス水準と世界トップクラスの治安の良さ。

    • 食文化
      ユネスコ無形文化遺産に登録された和食をはじめとする魅力的なガストロノミー。

    • 経済的優位性
      現在の円安は、外国人旅行者の購買力を大幅に高める経済的な魅力となっています。

    • ポップカルチャー
      アニメ、漫画、J-POPなどが若年層の訪日動機となっています。

  • 2025年以降の持続的な成長に向けた課題
    • オーバーツーリズムの是正
      特定地域への観光客集中による、住民生活への影響の緩和。

    • 多言語対応・情報発信の強化
      特に地方における案内表示や情報提供の多言語化。

    • 地方への誘客
      ゴールデンルート以外に、地方のユニークな観光コンテンツを発掘し、磨き上げること。

    • 人手不足の解消
      観光産業における労働力確保とサービス品質の維持。

    • 持続可能な観光モデルの構築
      環境と文化を守り、地域と共生する長期的な観光戦略の確立。

日本のインバウンド市場が真の成熟期を迎え、質の高い成長を続けるためには、これらの課題に対して長期的な視点で積極的に取り組むことが不可欠です。

データで見る市場別インバウンド需要予測【2025年版】

2025年のインバウンド市場は、世界経済や航空路線の状況に応じて、市場ごとに異なる動向を示すでしょう。ここでは、主要な市場における需要予測と、その特徴をまとめます。

中国:回復の加速と地方への関心(最重要市場)

中国は引き続き日本にとって最重要のインバウンド市場です。2024年は回復が緩やかでしたが、2025年には団体旅行の本格的な再開個人旅行の増加により、需要の加速が期待されます*1。

  • 需要の柱
    日本の高品質な日用品、化粧品、電化製品といった「買い物」への意欲は依然として根強いです。

  • 新たな傾向
    都市部の「ゴールデンルート」だけでなく、温泉地や豊かな自然がある「地方観光地」への関心が高まっています。

  • 戦略的な鍵
    航空路線の回復が進めば、コストと利便性が向上し需要を押し上げます。SNSを通じた的確な情報発信が購買行動に強く影響します。

*1 参照:2024年 国籍別 / 目的別 訪日外客数 (確定値)|JNTO(日本政府観光局)

台湾:安定した高水準とリピーターによる周遊拡大

地理的な近さと高い親日感情を持つ台湾は、2025年も極めて高い水準の需要を維持するでしょう。リピーターが多いことが最大の特徴です。

  • 旅行の目的
    日本の「食文化」への探求心が非常に強く、地方の旬の食材やB級グルメを求める傾向が顕著です。

  • 旅行スタイル
    個人旅行(FIT)が主流で、レンタカーなどを利用した広範囲の「周遊旅行」を綿密な計画のもとで実施します。

  • 戦略的な鍵
    鉄道周遊パスなどの公共交通の利便性が評価されており、地方の魅力を伝える情報提供が重要です。SNSでの情報収集も活発です。

韓国:LCCによる短期・リピート層の増加

地理的近接性とLCC(格安航空会社)の増便により、韓国からのインバウンド需要は引き続き堅調に推移し、週末や短期間の旅行先として日本が選ばれる傾向が強いです。

  • 需要のトレンド
    伝統的な「買い物」「食」に加え、地方の「カフェ巡り」や「アートスポット巡り」など、体験型の多様な目的が増加しています。

  • 主要顧客
    特に若年層の女性からの支持が厚く、SNS映えするスポットが人気を集めます。

  • 戦略的な鍵
    円安基調が続く限り高水準を維持しますが、日韓関係の安定が土台となります。ポップカルチャーを起点とした訪日も増加しています。

東南アジア諸国(ASEAN):高い成長性と多様なニーズへの対応

経済成長が著しい東南アジア(タイ、ベトナム、インドネシア、マレーシアなど)は、2025年も高い成長ポテンシャルを秘めています。初めての海外旅行先として日本を選ぶ層も多いです。

  • 旅行の目的
    自国では体験できない「雪景色」「温泉」「自然」、そして「アニメ・漫画」といったポップカルチャーへの関心が非常に高いです。

  • 多様性への対応
    イスラム圏からの誘客のため、ハラール対応など多様な食文化への柔軟な対応が不可欠です。

  • 戦略的な鍵
    個人旅行の割合が増加傾向にあり、各国の言語に合わせた効果的なSNSプロモーションが、需要獲得の鍵となります。

欧米圏:高単価・長期滞在の質の高い顧客層

米国、欧州、オーストラリアなどからの旅行者は、一人当たりの消費額が大きく、長期滞在する傾向が強いため、質の高い顧客層として着実に回復・成長が見込まれます。

  • 旅行の目的
    伝統文化(茶道、武道など)、歴史、地方の生活文化に深く触れる「日本ならではの文化体験」を強く志向します。

  • 旅行スタイル
    個人旅行が圧倒的に主流で、持続可能な観光への意識が高く、環境や地域に配慮した旅の選択を重視します。

  • 戦略的な鍵
    英語を主軸とした質の高い情報提供と、地方の自然体験(ハイキング、サイクリング)やガストロノミーなど、体験型プログラムの充実が需要獲得に不可欠です。

次にブームが来る都市はどこ?地方分散を加速させる注目の5エリア

2025年以降、日本のインバウンド市場のトレンドは、東京や京都などへの一極集中から、地方の個性的な都市への「分散」へと大きく舵を切ります。これは、大都市のオーバーツーリズム問題を避けたい旅行者や、日本独自の深い文化や体験を求めるリピーター層の増加が主な理由です。

ここでは、今後、訪日客が急増し、新たなブームを巻き起こす可能性を秘めた5つのエリアを紹介します。

1. 広島・瀬戸内エリア:アートと平和のテーマを巡る周遊の要

広島は、平和記念公園や厳島神社といった世界遺産を擁するだけでなく、今後は瀬戸内海全域を巡る広域観光の拠点として注目されています。

人気の理由は、欧米豪の個人旅行客(FIT)が好むサイクリング(しまなみ海道)や、直島などの現代アートの島巡りといった体験型観光。

 広島市内を基点に、尾道、倉敷、道後温泉など、多様な魅力を組み合わせた周遊ルートを提案できる点が強みです。

2. 金沢・北陸エリア:伝統と食文化を求める旅の新幹線効果

2024年の北陸新幹線延伸により、東京からのアクセスが向上した金沢は、富裕層や文化志向の旅行者の間で人気が急上昇しています。特に、兼六園やひがし茶屋街に見られる美しい日本の伝統文化と、新鮮な海の幸をはじめとする質の高い食文化への評価が高いです。

世界遺産の白川郷や五箇山、温泉地、そして立山黒部アルペンルートなど、周辺の多様な自然・文化体験と連携しやすい点が、長期滞在を促します。

3. 沖縄本島北部・やんばるエリア:エコツーリズムの新たな聖地

沖縄本島北部にある「やんばる」は、世界自然遺産に登録された手つかずの自然が最大の魅力であり、従来の沖縄観光とは一線を画す「体験」を提供するのが魅力です。環境負荷の低いエコツーリズムやアドベンチャーツーリズムが楽しめることから、欧米豪やアジアの富裕層から熱い視線を注がれています。

トレッキング、カヌー、自然学習など、自然と深く触れ合うアクティビティが充実し、2025年オープンのテーマパーク「ジャングリア沖縄*2」も新たな集客力となります。持続可能な観光モデルの構築が鍵です。

*2 参照:ジャングリア沖縄

4. 札幌・道央エリア(ニセコ・富良野周辺):通年型リゾートとしての進化

札幌を中心とする道央エリアは、冬のパウダースノー(ニセコ)で国際的な地位を確立していますが、今後は通年での需要拡大が見込まれます。

冬のスキーだけでなく、夏場のラベンダー畑(富良野)や美しい田園風景が、アジア圏の旅行者を惹きつけてやみません。

広大な自然を活かしたアウトドア(ゴルフ、サイクリング)と、質の高い北海道の「食」が、訪日客の滞在期間を延ばし、通年のリゾート地として機能する要素となります。

5. 東北地方(仙台を拠点に):奥深い歴史と力強い祭りの魅力

震災からの復興と合わせて、東北地方が持つ独自の歴史・文化資源が、リピーター層の間で再評価されつつあります。仙台はその観光拠点です。

松島や蔵王などの景勝地、平泉の世界遺産に加え、青森のねぶた祭や秋田の竿燈まつりといった「力強い伝統祭り」は、本質的な体験を求める旅行者の動機付けとなります。

豊かな温泉地と、雪景色を活かしたウィンタースポーツなど、四季折々の魅力を活かした広域連携により、需要拡大が期待されます。

訪日旅行者が求める「価値」とは?鍵を握る3つの要素

2025年以降、訪日旅行者は単なる観光や買い物に留まらず、より「深く、本質的な価値」を求めるようになります。この変化を捉えるためのキーワードは、「文化」「食」、そして「サステナブル(持続可能性)」の3点です。

1. 文化:観光から「学びの体験」へ進化

旅行者が求める「文化」とは、見て終わるものではなく、「地元の人々と交流し、日本の精神や技に触れる」ことです。

  • 深い体験を追求
    単なる歴史的建造物の見学ではなく、茶道体験で自らお茶を点て、その精神性に触れたり、武道や座禅を通じて日本の精神性を学びたいというニーズが高まっています。

  • 地域の職人技を体験
    伝統工芸(陶芸、染物、和紙など)の制作体験を通じて、職人のこだわりやものづくりの哲学を理解することが人気です。

  • ポップカルチャーの定着
    アニメや漫画の聖地巡礼は、現代の重要な文化体験として定着しており、関連イベントへの参加意欲も非常に高いです。

2. 食:地域に根ざした「ガストロノミー探求」

訪日客にとって「食」は、ミシュラン級の料理から地元グルメまで、その土地の文化を映す「究極の体験」です。

  • 地域食文化への関心
    高級料理だけでなく、地方独自の郷土料理やB級グルメ、そして食材の生産背景にまで関心が寄せられています。

  • 体験型グルメ
    漁港の朝市での食事や、地元農家レストランでの旬の味覚、酒蔵見学と試飲を通じた風土の探求などが人気です。

  • 多様な食への対応
    精進料理、ヴィーガン、ハラールなど、多様な食文化を持つ旅行者のニーズに応えることが、今後ますます重要になります。

3. サステナブル:地球と地域に「貢献する旅」の選択

旅行者の間で「サステナブルツーリズム(持続可能な観光)」の意識が急速に高まっており、旅の選択基準に組み込まれつつあります。

  • 責任ある行動の重視
    環境負荷の低減(公共交通機関の利用、ごみの削減)や、地域経済への貢献(地元産品の購入、住民との交流)を重視する旅のスタイルです。

  • エコツーリズムへの参加
    世界遺産や国立公園では、自然保護に貢献するエコツーリズムや、古民家での滞在といった地域に溶け込む体験へのニーズが顕在化しています。

  • 情報発信の重要性
    観光事業者は、持続可能性への具体的な取り組みを明確に示し、旅行者にその意義を伝えることで、高い意識を持つ顧客層を獲得できます。

2025年のインバウンド戦略:企業・自治体が今すぐ取るべき5つの行動

2025年のインバウンド市場は、需要回復フェーズから、「質の高い成長」と「持続可能性」を追求する新たな戦略フェーズへと移行します。企業や自治体は、この変化に適応し、ブームを最大化するために、以下の5つの具体的行動を迅速に実行する必要があります。

1. 徹底したターゲット設定と「体験」コンテンツの磨き上げ

画一的な観光パッケージは、多様化する旅行者のニーズに応えられません。

  • 取るべき行動
    • ターゲット層の明確化
      どの国・地域(例:欧米豪の富裕層、アジアの若年層など)のリピーターを呼び込みたいかを明確にします。

    • 独自コンテンツの開発
      地域の食文化(ガストロノミー)や伝統工芸、自然体験といった「そこでしかできない」体験を深く掘り下げ、高付加価値なコンテンツとしてパッケージ化します。

    • 多様なニーズへの対応
      ハラール対応、ベジタリアン対応、宗教・文化に配慮した案内表示など、多様性(ダイバーシティ)に対応した環境を整備します。

2. デジタル技術(DX)による情報発信と利便性の抜本的向上

旅行計画から現地移動まで、スマートフォン一つで完結できる「ストレスフリーな環境」を提供することが求められます。

  • 取るべき行動
    • SNS戦略の最適化
      ターゲット国の主要SNS(Instagram, WeChat, TikTokなど)を分析し、文化的な背景を考慮した動画コンテンツを積極的に発信します。

    • 多言語DXの推進
      AI翻訳やチャットボットを導入し、観光施設や交通機関における多言語対応の質を上げます。

    • キャッシュレス決済の普及
      幅広い種類のキャッシュレス決済に対応し、無料Wi-Fi環境の整備を加速させます。

3. 持続可能な観光(サステナビリティ)のメッセージ発信と実践

地球環境や地域社会への配慮は、特に欧米豪の旅行者にとって重要な選択基準となっています。

  • 取るべき行動:
    • 環境への配慮を明示
      地域資源の保全活動や、環境負荷の低い交通手段の利用促進といった具体的な取り組みを公式ルートで発信します。

    • 地域貢献型ツーリズムの推進
      地元産品の利用を促すプログラムや、住民との交流機会を創出し、「旅行者が地域に貢献できる」というストーリーを提供します。

    • オーバーツーリズム対策
      混雑状況の可視化、時間帯別・エリア別の割引導入などにより、観光客の分散を促し、住民生活との調和を図ります。

4. 地方分散に向けた「広域連携」と「二次交通」の強化

ゴールデンルート集中を解消し、地方の消費を拡大させるためには、複数自治体による連携が不可欠です。

  • 取るべき行動
    • テーマ別周遊ルートの開発
      複数の市町村が連携し、温泉、歴史、アートといった共通のテーマで繋がる周遊ルートを造成します。

    • 交通利便性の向上
      地方空港から周遊ルート内の主要地点を結ぶ二次交通(シャトルバス、レンタカー、タクシーなど)の多言語化と予約システムの構築を最優先で整備します。

    • 国際線誘致の働きかけ
      LCCも含めた国際線の新規就航や増便に向け、関係機関と積極的に連携します。

5. 多文化共生型の人材育成と労働環境の整備

観光需要の増加に対応し、質の高いサービスを維持するためには、人手不足の解消多様な人材の活用が不可欠です。

  • 取るべき行動
    • 外国人材の積極的な採用
      労働環境を改善し、外国人留学生や特定技能外国人材を積極的に採用・育成します。

    • 多文化教育の実施
      従業員に対し、異文化理解や多言語対応に関する研修を実施し、多文化共生型のホスピタリティを高めます。

    • DXによる効率化
      予約やチェックイン業務をデジタル化し、スタッフの業務負担を軽減することで、サービス品質の維持人手不足の緩和を両立させます。

ブームを先取りしてインバウンド集客を最大化しよう!

2025年からのインバウンド需要は、これまでの回復期を経て新たな局面を迎えつつあります。パンデミック前の水準に回復するだけでなく、旅行者のニーズはより多様化し、本質的な「体験」を求める傾向が強まっているからです。

これからは、オーバーツーリズムの回避や、日本の奥深い魅力を求めるリピーター層の増加から東京や大阪といった大都市だけでなく、地方都市を訪れるインバウンド客が飛躍的に増加することが予想されます。

この変化の波に乗り遅れないよう、企業や自治体は今こそブームを先取りし、戦略的なインバウンド対策を進めましょう。

インバウンド需要を取り込むには、地方ならではの文化や食、自然体験に特化したコンテンツ開発、そして多言語対応やデジタル技術を駆使した情報発信が不可欠です。持続可能な観光モデルを構築して地域住民との共生を図り、長期的な視点での集客最大化を目指しましょう。

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