インバウンド対策で失敗する企業の共通点とは?“二度手間”を防ぐための成功戦略
訪日外国人観光客が急増する中、多くの企業や自治体がインバウンド対策に乗り出しています。しかし、多額の予算を投じながらも「思うように集客できない」「結局ゼロからやり直すことになった」という声も後を絶ちません。なぜ、良かれと思って始めた施策が空回りしてしまうのでしょうか。そこには、失敗する企業が陥りがちな共通の落とし穴が存在します。
本記事では、インバウンド対策が“やり直し”になる典型的な事例を紐解き、無駄なコストをかけずに着実な成果を出すための本質的な戦略を分かりやすく解説します。
【目次】
インバウンド対策で「やり直し」が急増している背景
インバウンド需要が急速に回復する中、多くの事業者が対策を急いでいますが、かつての成功法則が通用しなくなっています。最大の要因はコロナ禍を経た訪日客のニーズの多様化と高度化です。単なる「ゴールデンルート」の周遊から、地方の文化や日常を体験する「コト消費」へとシフトし、観光地間の集客競争は世界規模で激化しています。さらに、これまでの「とりあえず翻訳」「とりあえずSNS」といった表面的な対策の限界が露呈しています。多言語対応は今や「あって当たり前」の前提条件となり、単に情報を提示するだけでは競合に埋もれてしまいます。ターゲットの文化圏に合わせた情報の最適化(ローカライズ)や、旅の文脈に沿った体験設計が欠けている施策は、結果として「誰も来ない」「満足度が低い」という事態を招き、根本的な戦略のやり直しを余儀なくされているのです。
インバウンド対策が“やり直し”になる代表的な5つのケース
インバウンド施策が頓挫し、やり直しを迫られるケースには一定のパターンがあります。ここでは、特に陥りやすい5つの失敗事例を深掘りします。
1.「ターゲット」が曖昧なまま全方位に発信している
最も多い失敗が、「外国人観光客」という巨大な括りでターゲットを捉えてしまうことです。
実際には、国籍や文化圏によって旅に求める価値は180度異なります。
例えば、ショッピングやグルメを重視するアジア圏の層と、自然や歴史体験を深掘りしたい欧米豪圏の層では、刺さるキーワードも写真のトーンも全く別物です。
「誰にでも受ける情報」は結果として「誰の心にも残らない情報」になり、広告費だけを浪費して集客に繋がらない事態を招きます。
2.翻訳が「直訳」で魅力が伝わっていない
予算を削るために無料の機械翻訳に頼り切ったり、日本語のパンフレットをそのまま英訳したりするケースも危険です。
特に食文化や歴史の解説において、文化的な背景(コンテキスト)を無視した直訳は、外国人にとって意味不明なだけでなく、自社のブランド価値を著しく下げてしまいます。
重要なのは言葉を変換することではなく、現地の視点で「その価値がどう魅力的に映るか」を再構築する「クリエイティブ・トランスレーション」の視点です。
3.決済・通信などの「受け入れ環境」が不十分
プロモーションに成功して来客数が増えても、現場の受け入れ体制(インフラ)が追いついていないと、やり直しの原因となります。キャッシュレス決済ができない、フリーWi-Fiがない、指差し確認シートすら用意されていないといった不備は、顧客満足度を即座に低下させます。
今の時代、旅先での不満はSNSや口コミサイトに即座に拡散されるため、一度ついた「不便な施設・地域」というレッテルを剥がすには、多大な時間と労力が必要になります。
4.データに基づかない「勘と経験」の施策
「自分たちが誇りに思っているもの」が、必ずしも外国人が見たいものとは限りません。
「日本らしさ」を独りよがりに押し付けてしまうケースも後を絶ちません。
地域の特産品や伝統工芸を売りにしたい場合でも、市場調査に基づいた裏付けがなければ空振りに終わります。
訪日客の行動データや検索キーワード、競合他社の動向を数値で分析せず、経営層の「勘」だけで進めてしまうと、ニーズのズレに気づいたときには手遅れになっていることが多いのです。
5.単発のプロモーションで終わっている
補助金や予算がある時だけ広告を出し、期限が切れるとパタリと発信を止めてしまうパターンです。
インバウンド集客は認知から訪問、そしてリピーター化へと繋げる「線」の設計が不可欠です。単発のイベントやキャンペーンで一時的に人を集めても、その後のファン作りの導線がなければ持続的な収益にはなりません。
継続的なコンテンツ発信とコミュニティ形成を無視した施策は、一過性の打ち上げ花火に終わり、結局「またゼロから集客し直し」という悪循環に陥ります。
失敗するケースに共通する「3つの致命的な欠点」
個別の失敗事例を見ていくと、その根底には共通する構造的な問題があることが分かります。対策を「やり直し」にしないために、自社が以下の欠点に陥っていないかチェックしてみてください。
共通点1:カスタマージャーニーの欠如
多くの失敗プロジェクトでは、「旅マエ・旅ナカ・旅アト」という一連の顧客体験(カスタマージャーニー)が断絶しています。
例えば、SNSで魅力的な写真を投稿して認知(旅マエ)を得ても、実際の予約サイトが多言語非対応だったり、現地へのアクセス方法が不明確だったりすると、顧客は離脱してしまいます。
「知る」から「行く」「体験する」「共有する」までを繋げる視点が欠けていると、点としての施策はどれほど豪華でも、最終的な集客には結びつきません。
共通点2:独りよがりの情報発信
「日本庭園のこの静寂が素晴らしい」「この伝統工芸の技術は世界一だ」といった、提供者側の価値観を押し付ける(=プロダクトアウト)姿勢も共通の欠点です。
もちろん誇りを持つことは重要ですが、インバウンドにおいては「訪日客が何に価値を感じ、何に困っているのか」というマーケットインの視点が不可欠です。
自社の強みを「外国人のフィルター」を通して翻訳し、彼らの文脈に沿って再定義する作業を怠ると、どれほど熱心な発信も空振りに終わります。
共通点3:現場との連携不足
マーケティング担当者が立派な戦略を立て、広告で「手厚いおもてなし」を謳っていても、接客現場(フロントライン)のスタッフがその内容を把握していない、あるいは外国人対応に不安を感じているようでは本末転倒です。
現場との連携が不十分だと、広告を見て期待に胸を膨らませて訪れた観光客に、期待外れの体験を提供してしまうことになります。
「Web上の約束」と「現場の実態」の乖離は、致命的な低評価を招き、施策のやり直しを余儀なくされる大きな原因となります。
「やり直し」を成功に変えるためのステップ
過去の失敗を教訓に、インバウンド対策を軌道修正し、確実に成果を出すための3つのステップを解説します。
ステップ1:ペルソナの再定義(どの国の、誰に、何を届けるか)
まずは、曖昧になっていたターゲットを極限まで絞り込むことから始めましょう。「30代・台湾・女性」といった属性だけでなく、「なぜ日本に来るのか」「どんな不満を解消したいのか」というインサイト(本音)まで深掘りしたペルソナを作成します。
ターゲットを絞ることは、他の客層を捨てることではありません。「特定の誰か」に熱烈に刺さるコンテンツを作ることで、結果として似たニーズを持つ層まで波及するのです。
まずは優先順位の高い1カ国・1属性にリソースを集中させ、発信するメッセージの解像度を劇的に高めましょう。
ステップ2:徹底した競合調査と自社の強みの棚卸し
次に、競合となる地域や施設が「外国人視点で」どのように評価されているかを調査します。
ここで重要なのは、Googleマップの口コミやSNSのハッシュタグ分析です。自社が強みだと思っていたポイントが、実は外国人には響いていなかったり、逆に意外な要素が高く評価されていたりする発見があるはずです。「競合にはない、自社だけのユニークな体験価値(USP)」を見つけ出し、それをターゲットの文化圏に合わせた見せ方で再構成してください。
自分たちの自慢話ではなく、相手にとっての「メリット」として強みを語り直す作業が不可欠です。
ステップ3:小さく始めてデータで検証する「アジャイル型」の導入
最初から数千万円の予算を投じて完璧なWebサイトやプロモーション動画を作る必要はありません。まずはSNS広告や少額のWeb広告を1〜2ヶ月運用し、どのバナーやキャッチコピーが最も反応が良いかをテストすることから始めましょう。
現場でのフィードバックも重要なデータです。「実際に来た外国人がどこで困っていたか」をスタッフから吸い上げ、即座に看板やメニューの改善に反映させる。
この「実行→検証→改善」のサイクルを高速で回すアジャイル型の姿勢こそが、無駄な「やり直し」を防ぎ、最短ルートで成功へ導く唯一の方法です。
まとめ:インバウンド対策は「点」ではなく「線」で考える
インバウンド対策における「やり直し」は、決して無駄な失敗ではありません。そこから得られるデータや現場の課題は、真のターゲットニーズを捉え直すための貴重な資産となります。
大切なのは、単発のプロモーションという「点」で終わらせず、訪日客の体験全体を「線」で捉えるカスタマージャーニーに基づいた一貫性のある設計です。独りよがりの発信から脱却し、データと現場の声を反映したアジャイルな改善を継続することで、インバウンド対策は必ず成功へと繋がります。
今こそ、本質的なニーズに根ざした持続可能な戦略へとシフトしましょう。
