飲食店に外国人観光客を呼び込む集客戦略と成功の秘訣―MEO・SNSの活用からキャッシュレス決済導入まで―
【目次】
活気を取り戻したインバウンド市場と、今こそ集客に注力すべき理由
パンデミックが収束し、日本の観光市場は過去に類を見ない活気を取り戻しています。特に、円安の影響が追い風となり、多くの外国人観光客が日本を訪れるようになりました。日本政府観光局(JNTO)のデータによると、2024年の訪日外国人観光客数は3,600万人を超え、過去最高を記録しています*1。
訪日客の増加は国・地域によっても顕著です。2024年において最も多かったのは韓国からの旅行客で、続いて中国、台湾、香港といった東アジアからの訪問者が全体の約3分の2を占めました。これらに加えて、米国、豪州、欧州からの旅行者も増加傾向にあり、日本の観光はより多様な国の人々で賑わうようになっています。
この活況は、単なる一過性のブームではなく、日本の飲食業界にとって大きなビジネスチャンスと言えます。しかし、多くの飲食店がこの市場に注目しているため、競争も激化しています。今このタイミングでインバウンド集客に本格的に取り組むかどうかが、今後の売上を大きく左右する分かれ道になるでしょう。
*1 出典:訪日外客数(2024年12月および年間推計値)
インバウンド集客のカギはインターネットにあり
現代の旅行者は、インターネット上の情報をもとに自分たちの興味や好みに合った場所を探すのが一般的で、SNSやGoogleマップ、旅行口コミサイトなどが主な情報源です。そのため、実店舗での魅力的なサービスはもちろんのこと、オンラインでいかに自分のお店の情報を効果的に発信できるかが、集客の鍵を握っています。
旅行者が事前に徹底的に調べるようになった背景には、「失敗したくない」という強い思いがあります。異文化圏での食事は、言語の壁や食習慣の違いから、不安を感じることも少なくありません。例えば、アレルギー情報や宗教上の理由で食べられない食材、またお店の雰囲気や客層といった、ウェブサイトやSNSで得られる情報は、そうした不安を払拭するために非常に重要です。
お店側からすると、ただ単にメニューや営業時間を載せるだけでは不十分で、「このお店でしか体験できない価値」を伝える必要があります。シェフのこだわり、食材の仕入れ先、お店の歴史、常連客とのエピソードなど、お店のストーリーを多言語で発信しましょう。お店ならではの魅力を細かく伝えることで、ただの飲食店としてではなく、「旅の目的地」として選ばれる可能性が高まります。
インバウンド集客施策の基本「MEO(Map Engine Optimization:マップエンジン最適化)」とは?
インバウンド集客を成功させる上で、MEO(マップエンジン最適化)は避けて通れません。MEOは、Googleマップなどの地図検索結果において、自店舗の情報を上位に表示させるための施策を指します。一方、SEO(検索エンジン最適化)は、Google検索やYahoo!検索といった一般的な検索エンジンで、自社サイトが上位に表示されるように行う対策です。両者は似ていますが、目的や対象が大きく異なります。
SEOがウェブサイト全体の順位を向上させることを目指すのに対し、MEOは主に「地域名+業種(例:新宿 レストラン)」や「現在地付近+キーワード(例:near me sushi)」といった検索を行ったユーザーに、お店を効果的にアピールすることに特化していると考えるとわかりやすいでしょう。インバウンド旅行者は、現在地や目的地周辺で食事場所を探すことが多いため、MEOは特に重要な施策なのです。お店の情報を正確に登録し、写真や口コミを充実させることで、来店客を増やすことが期待できます。
レストラン向けインバウンド集客実践Tips(MEO編)
それでは、具体的な集客施策を見ていきましょう。この項目では、インバウンド集客におけるMEOの重要性と具体的な施策について解説していきます。
1.多言語対応のウェブサイト・予約システムの構築
ウェブサイトは、外国人観光客にとってお店の顔となる重要な要素です。メニューの内容や料金、営業時間、定休日といった基本的な情報を、ターゲット国・地域に合わせて、最低限、英語とターゲット国の言語に対応させて記載しましょう。特に、アレルギー情報や宗教上の理由(例:ハラールやヴィーガン)で食べられない食材の有無を明記することは、外国人観光客の安心感と信頼度を大きく高めます。また、24時間いつでもウェブサイトから直接予約ができるシステムを導入すると、顧客の利便性が向上し、予約率アップにもつながります。
2.Googleビジネスプロフィールの最適化
外国人旅行者の多くがGoogleマップを使ってお店を探す傾向があるため、Googleビジネスプロフィールの最適化は欠かせません。正確な店名、住所、電話番号、そして最新の営業時間を常に更新することが肝心です。メニューや店舗の写真を多言語で掲載し、外国人からの口コミには積極的に返信しましょう。丁寧な対応は、新たな訪問者への信頼を築くことにもつながります。さらに、写真には料理や内装だけでなく、接客の様子などお店の雰囲気が伝わるものを選ぶと、より効果的です。
3.ターゲットを絞ったSNSマーケティング
SNSは、お店の魅力を視覚的に伝えるのに非常に効果的なツールです。InstagramやFacebook、TikTokなど、ターゲット層がよく利用するSNSを選び、料理や店舗の雰囲気を伝える高品質な写真や動画を定期的に投稿しましょう。ハッシュタグを多言語で活用することで、より多くの外国人ユーザーにリーチできる可能性が広がります。また、外国人インフルエンサーを招いてお店を紹介してもらうなど、SNSを通じた積極的なプロモーションも検討に値するでしょう。
4.旅行関連ウェブサイト・アプリへの登録
トリップアドバイザーやぐるなび、食べログといった主要な旅行・グルメサイトへの登録も有効です。これらのサイトには多くの外国人が訪日前に情報収集のためにアクセスしています。お店の情報を詳細に掲載し、「ハラール対応」「ヴィーガン対応」など特定のニーズに対応している点を明確に記載することで、潜在顧客の興味を引くことができるでしょう。外国人旅行者向けのクーポンや限定メニューを掲載することも、集客につながる魅力的な施策の一つです。
5.メニューの多言語化と写真の活用
店内でのスムーズなコミュニケーションのため、メニューの多言語化は必須です。料理名だけでなく、食材や調理法を簡潔に説明することで、外国人のお客様が安心して注文できるように配慮しましょう。さらに、メニューブックに料理の写真を豊富に掲載することで、言葉の壁を越えたコミュニケーションが可能になり、注文の満足度も高まります。アレルギー表を分かりやすく提示する、あるいはQRコードを読み込むと多言語メニューが見られるようにするなど、テクノロジーを活用した工夫も有効です。
レストラン向けインバウンド集客実践Tips(接客・サービス編)
オンラインでの情報発信で集客できても、実際の店舗での体験が期待外れでは意味がありません。外国人観光客に「また来たい」「人に勧めたい」と思ってもらうためには、質の高い接客とサービスを提供することが不可欠です。ここからは、接客・サービスにおけるインバウンド集客のコツをお伝えします。
1.キャッシュレス決済の導入
キャッシュレス決済は、外国人観光客にとって欠かせないサービスです。現金を持ち歩く習慣がない国も多いため、クレジットカードやモバイル決済など、多様な決済方法に対応していることは、お店を選ぶ際の重要な判断基準となります。導入を検討している場合は、主要な国際ブランド(Visa、Mastercardなど)に加え、AlipayやWeChat Pay、QRコード決済にも対応しておくと、より多くの観光客を取り込めるでしょう。利用可能な決済方法をウェブサイトや店頭の入り口に明記しておくことで、安心して来店してもらえるようになります。
2.多言語対応できるスタッフの配置
言葉の壁は、外国人観光客にとって大きなストレスになり得ます。すべてのスタッフが流暢な外国語を話す必要はありませんが、簡単な接客フレーズだけでも多言語で対応できるよう準備しておくことが重要です。主要なフレーズをまとめたハンドブックを作成したり、翻訳アプリやタブレットを導入してスムーズなコミュニケーションを可能にしたりするなど、工夫次第で対応の幅は広がります。笑顔とアイコンタクトで、言葉が通じなくても丁寧な「おもてなし」の心を伝えるようにしましょう。
3.日本文化体験の提供
ただ食事を提供するだけでなく、日本ならではの文化を体験できるサービスを提供すると、外国人観光客にとって忘れられない思い出となります。例えば、着物や浴衣を着て食事ができるプランや、自分で寿司を握ったり、そばを打ったりする体験型メニューを用意するのも面白いでしょう。このようなユニークな体験は、SNSでシェアされやすく、新たな集客に繋がる可能性が高まります。
4.店内の多言語サイン表示
外国人観光客が安心して過ごせるよう、店内の案内表示も多言語化しておきましょう。トイレやWi-Fiの利用方法、喫煙所、非常口など、誰にとっても必要な情報をわかりやすく掲示することは、サービスの基本です。また、料理の紹介や食材のこだわり、お店の歴史などを簡単な外国語で記載しておくと、より深くお店の魅力を理解してもらう機会にもなるでしょう。
5.リピーター・口コミ促進の仕組みづくり
せっかく来店してくれた外国人観光客に、次もお店を選んでもらうためには、リピーターになってもらうための施策が欠かせません。帰国後もお店を思い出してもらえるよう、SNSでの投稿を促したり、割引クーポンを配布したりといった工夫が有効です。さらに、トリップアドバイザーなどの口コミサイトへの投稿を促すことで、お店の評価を高め、新たな外国人観光客の来店を促すことができるでしょう。来店客の満足度を高めることが、口コミを広げる一番の近道だと言えます。
インバウンド集客施策は何から始めれば良い?
ここまで様々なインバウンド集客施策について解説してきましたが、いきなりすべてを実践するのは大変かもしれません。そこで、まずは「今すぐできること」から始めることをおすすめします。例えば、Googleビジネスプロフィールの情報を最新に更新する、メニューを英語と韓国語に対応させるなど、小さな一歩から始めてみましょう。
特に、オンラインでの情報発信は費用をかけずに始められるものが多く、効果も比較的早く現れやすいのが特徴です。まずは、自店舗の現状を把握し、どの部分に課題があるのかを分析してみてください。そして、今回ご紹介した「MEO編」と「接客・サービス編」のどちらから始めるべきかを判断すると良いでしょう。
例えば、オンラインでの露出が少ないと感じるなら「MEO編」、来店はあってもリピートに繋がらないと感じるなら「接客・サービス編」から始めるのが効果的です。また、独力でのMEO対策が難しいと感じる場合は、インバウンド集客を得意とする専門企業に依頼するという選択肢も検討すると良いでしょう。プロの知見を活用することで、より効率的かつ効果的な集客が見込めるかもしれません。
まとめ:行動を起こすことがインバウンド集客成功への第一歩
この記事では、インバウンド集客を成功に導くための具体的な施策を、オンラインでの情報発信(MEO)と店舗での接客・サービスに分けて解説しました。活況を呈する日本の観光市場において、外国人観光客は大きなビジネスチャンスをもたらします。彼らの「失敗したくない」という心理を理解し、多言語対応のウェブサイトやGoogleビジネスプロフィールの最適化、SNSを活用した情報発信を積極的に行いましょう。
そして、お店での体験をより良いものにするため、キャッシュレス決済の導入や多言語対応できるスタッフの育成、さらには日本文化体験の提供など、おもてなしの質を高めることが不可欠です。最初からすべてを完璧にする必要はありません。まずは、Googleビジネスプロフィールの情報を更新するなど、今すぐできる小さな一歩から始めてみましょう。そして、その効果を確かめながら、改善を繰り返していくことが何よりも重要です。
本記事でご紹介したTipsを参考に、自店舗の強みと課題を分析し、最適なインバウンド集客施策を実践してみてください。行動を起こすことが、成功への第一歩です。