観光DXで成果が出ない自治体の5つの共通点|失敗パターンと見直しの基本
補助金を活用して多言語サイトを整え、MEOツールも導入した。それでも、外国人観光客の数は昨年とあまり変わらない。観光DXに取り組む自治体や観光団体の担当者から、こうした声が聞かれることは少なくありません。
訪日外客数は2025年に4,268万人となり、前年比15.8%増で過去最高を更新しました*1。一方で、2026年上半期は2,108万人と、前年同期比2.0%減にとどまっています*2。市場全体が伸び続けた局面から、訪日客に「選ばれる地域」と「選ばれにくい地域」の差が見えやすい局面へと移りつつあります。
結論から言えば、観光DXで成果が出ない大きな原因は、デジタルツールの導入そのものが目的になってしまうことです。本記事では、成果が出にくい地域に共通する5つのパターンと、見直しの3つの基本を整理します。自治体・DMOの方はもちろん、地域で飲食店や宿泊施設を営む経営者の方にも、自店でできることを考えるヒントになる内容です。
【目次】
観光DXで成果が出ない最大の原因は「導入がゴールになること」
観光DXとは、デジタル技術を活用して、観光客の体験や地域の観光サービスのあり方を見直す取り組みのことです。目指すのは、サイトやシステムを整えること自体ではなく、訪日客の情報収集や予約の行動に地域の側が合わせていくことにあります。
「システムを入れれば観光客が増える」とは限らない
補正予算や交付金の期限内に事業を完了させる必要があり、どうしても「導入する」ことに意識が向きやすい。これは多くの現場に共通する事情です。担当者の努力が足りないわけではなく、制度の進め方に起因する部分も大きいといえます。
ただ、MEOツール(Googleマップでの表示順位の改善を支援するツール)や多言語CMSは、訪日客に見つけてもらうための「土台」にすぎません。日々の更新や口コミへの返信といった運用が伴って初めて、集客に結びつきます。導入しただけで運用の担い手や仕組みがない状態では、成果は出にくくなります。
訪日客の「探す・決める・体験する」行動は変わっている
以前は、パンフレットやガイドブックで行き先を調べるのが一般的でした。現在の訪日客は、SNSや口コミアプリで気になる場所を見つけ、Googleマップで位置や評判を確認し、OTA(オンライン旅行予約サイト)で予約するといった流れで旅行先を決めることが増えています。
たとえば中国圏の旅行者は、大衆点評やRED(小紅書)といった中国発のアプリで情報を探す傾向があります。自治体の公式サイトは大切な情報源ですが、公式サイトだけで行き先が決まるケースは多くありません。訪日客が実際に見ている場所に、正確な情報が届いているかどうかが重要です。
また、2026年上半期は中国市場の低迷が全体の数字に影響しました*2。特定の国や地域に頼らず、市場ごとの動きを見ながら施策を組み立てる視点も欠かせません。
成果が出にくい地域に見られる5つの共通パターン
つまずき方には、似た傾向があります。自分たちの地域に当てはまるものがないか、照らし合わせてみてください。
パターン1:庁内・組織内の縦割りで、旅の流れが誰にも見えていない
観光課、商工課、交通担当などがそれぞれ別々に施策を進めているケースです。予約は観光課、多言語対応は商工課、免税対応は別の部署というように担当が分かれると、訪日客が実際にたどる「旅の流れ」を全体で見る人がいなくなります。個々の施策は進んでいても、つながらないまま終わってしまいます。
パターン2:「誰に」「何を」届けるかが決まっていない
国や地域によって、情報を探す場所も、響く魅力も異なります。2025年は、年間の訪日客数が100万人を超える市場が中国、韓国、台湾、米国、香港、タイ、豪州の7市場に広がりました*3。市場が多様化しているのに、「総訪問者数」だけで成果を見ていると、どの施策が効いたのか判断できません。国別・目的別に狙いを定め、指標を分けて見ることが大切です。
パターン3:訪日客の「今」の情報探索を把握できていない
自治体サイトの改善に力を入れていても、訪日客はGoogleマップやSNS、口コミアプリで比較・検討していることがあります。サイトに予約へ進む導線がない、あるいは訪日客がそもそも公式サイトに到達していない場合、せっかくの情報が行動につながりません。
パターン4:単発の施策で終わり、継続する運用がない
予算のある期間は積極的に発信し、終了とともに止まってしまう。SNSの投稿や口コミへの返信が「キャンペーン」として扱われ、日々の「業務」として回っていないケースです。口コミへの返信体制がないまま発信が途絶えると、訪日客から見て情報が古い印象を与えてしまいます。
パターン5:地元の事業者と一緒に設計できていない
飲食店、宿泊施設、体験事業者が施策の設計に関わっていないと、現場で使われないまま終わりやすくなります。多言語対応や予約システムを導入しても、事業者側にその準備や運用の余力がなければ、訪日客が実際に利用できる状態にはなりません。
観光DXを成果につなげる3つの基本
失敗パターンを裏返すと、見直しの方向が見えてきます。ここでは3つの基本を紹介します。
基本1:訪日客がどこで情報を探しているかを知る
出発点は、訪日客の行動を把握することです。Googleマップ、OTA、SNS、UGC(旅行者自身が投稿する口コミや写真)、口コミアプリは、並行して使われています。国別・年代別・来日目的別にどのチャネルが使われているかを確認し、その中で自地域の情報がどう見えているかを確かめましょう。
基本2:「旅マエ・旅ナカ・旅アト」で役割を分ける
訪日客の体験を3つの段階に分けると、やるべきことが整理しやすくなります。
- 旅マエ:SNSやOTA、口コミアプリで地域や店舗が見つけられ、検討される段階
- 旅ナカ:予約、決済、多言語での案内を通じて、現地で体験する段階
- 旅アト:口コミやレビュー、UGCによって評価され、次の旅行者に伝わる段階
各段階で、誰が・何を使って・どう動くのかを決めておくことが、観光DXの設計の基本です。自社での設計や運用が難しい場合は、IMJのようなインバウンド専門のMEO・多言語対応支援を活用する方法もあります。
基本3:導入数ではなく「使われている度合い」を指標にする
見るべきなのは、導入した数ではなく、実際に使われているかどうかです。たとえば、多言語対応した店舗数ではなく、その情報を見て来店や問い合わせにつながった件数。予約システムの導入店舗数ではなく、実際に予約が入った件数です。あわせて、仕組みが特定の担当者に依存せず、事業者だけでも続けられるかも確認しておくと安心です。
今月から始める「観光DX再設計」チェックリスト
現在地を確認するためのチェックリストです。「できている」「一部できている」「できていない」で振り返ってみてください。「できていない」が多いほど、見直しの余地があります。
組織・連携面
- ☐ 観光・商工・交通などの関係部署が、月1回以上、訪日客の旅の流れを共有しているか
- ☐ 地元の飲食店・宿泊施設・体験事業者の代表が、施策の設計に参加しているか
- ☐ 予算終了後の運用について、事業者と合意できているか
ターゲット・データ面
- ☐ 国別・年代別・来日目的別に、狙う層を分けて考えているか
- ☐ Google Analytics、Googleビジネスプロフィール、OTA、SNSの数値を月1回以上確認しているか
- ☐ 訪日客がどの経路から予約や来店に至ったかを把握しているか
実装面
- ☐ 地元店舗が、Googleマップや主要な口コミアプリに正確な情報で登録されているか
- ☐ メニューや説明文が、これらのプラットフォーム上で多言語に対応しているか
- ☐ 多言語対応が自治体サイトだけで完結せず、予約や来店につながる導線に組み込まれているか
成果測定面
- ☐ 指標がサイトのPV数やシステムの導入数ではなく、予約数や来店数になっているか
- ☐ 事業者ごとの売上の変化を確認し、改善に生かす流れがあるか
- ☐ 半年後・1年後の目標を決めているか
事例:運用の見直しで変化が出た2つのケース
ここでは、つまずきから軌道修正した2つのケースを紹介します。数値や期間はあくまで傾向を示す目安であり、同様の成果を保証するものではありません。
事例1:多言語サイトの完成後に、訪日客の導線を見直した観光地
ある地方の観光地では、補助金で多言語サイトを整備したものの、訪日客からのアクセスはほとんどありませんでした。Google Analyticsを見直したところ、公式サイトへの直接の流入は少なく、訪日客はGoogleマップで店舗や観光地を探していたことがわかりました。
そこで、地元店舗のGoogleビジネスプロフィールの整備に力を入れる方針へ転換。おおよそ3ヶ月ほどで、問い合わせや予約に変化が見え始めたとされています。
事例2:単発の発信から、日々の運用へ切り替えた地域と飲食店
別の地域では、予算期間中にSNS投稿やインフルエンサー施策を実施したものの、予算の終了とともに発信が止まりました。振り返ると、一時的な話題づくりよりも、口コミへの返信やレビューの確認といった日々の運用のほうが、継続的な集客につながると気づいたといいます。
IMJが支援したある飲食店では、Googleビジネスプロフィールの登録、多言語での情報整備、メニュー写真20枚以上の掲載、週2回の投稿更新を続けた結果、約6ヶ月で外国人客の来店比率が15〜20%程度まで高まった例があります。派手な施策ではなく、続けられる仕組みを整えたことがポイントです。
よくある質問:観光DXの進め方
観光DXで成果が出ない原因として、最も多いものは何ですか?
ツールの導入そのものが目的になってしまうことです。「サイトを作った」「多言語対応を進めた」といった実施内容を成果として扱い、実際に予約や来店につながったかを確認できていないケースが多く見られます。導入後の運用体制と、成果を測る指標をあわせて決めておくことが大切です。
補助金や交付金が終わっても、観光DXを続けられますか?
運用の負担を小さくする設計にすれば、続けられる可能性は高まります。大規模なシステムの新規導入に予算を使い続けるのではなく、口コミへの返信やレビューの確認など、日々の小さな運用に軸足を移す方法があります。事業者と運用の担い手を事前に決めておくと、予算終了後も止まりにくくなります。
地元の事業者がなかなか協力してくれない場合は、どうすればよいですか?
協力のお願いだけでなく、事業者にとってのメリットを具体的に示すことが近道です。日々の業務で手一杯な事業者にとって、新しい取り組みは負担に感じられがちです。先行して取り組んだ店舗の実際の変化を共有したり、メニュー写真の撮影など負担の大きい作業を支援したりすると、理解が進みやすくなります。
自治体サイトより、GoogleマップやOTAを優先すべきですか?
自治体サイトは公式の情報源として残しつつ、訪日客が実際に情報を探すGoogleマップ、OTA、SNS、口コミアプリでの情報整備にも力を割くことをおすすめします。地元事業者が正確な情報で登録され、多言語や決済に対応し、口コミへの返信が行われているかを、まず確認してみてください。
成果が出ていない場合は、どこから見直せばよいですか?
まずはデータの確認です。Google Analyticsでどの国からのアクセスがあるか、各事業者の予約状況に変化があるか、Googleビジネスプロフィールや口コミアプリで新しい口コミや評価が増えているかを見ます。変化が見られない場合は、庁内・組織内の連携、事業者との協力体制、継続的な運用の3点から見直すのが現実的です。
まとめ:観光DXは「デジタル化」ではなく「旅行者の行動に合わせた再設計」
観光DXの成否を分けるのは、システムの規模ではありません。訪日客がどこで情報を探し、どう決めて、どう体験するのか。その旅の流れを軸に、地域の取り組みを組み立て直せるかどうかが分かれ目になります。デジタルツールは、そのための手段です。
訪日客数が全体として高い水準にある今も、地域ごとの状況は一様ではありません*1,*2。2025年の訪日外国人旅行消費額は約9.5兆円、1人あたりの旅行支出は22.9万円でした*4。こうした数字を地域の実感につなげるには、現場の運用と事業者との連携が欠かせません。
まずは今月中に、次の3つから始めてみてください。
- 上記のチェックリストを関係者で共有し、現在地を確認する(所要時間の目安:約1時間)
- 地元の飲食店・宿泊施設3〜5社にヒアリングし、どの経路から訪日客が来ているかを確認する(約3時間)
- 旅マエ・旅ナカ・旅アトで訪日客の流れを整理し、組織内の役割分担を決める(約1時間)
インバウンドマーケティングジャパンでは、MEO対策代行から多言語対応支援、SNSマーケティング、インバウンドコンサルティングまで、地域のインバウンド集客を一気通貫で支援しています。「ツールは導入したが集客につながらない」「補助金が終わった後も続けられる仕組みにしたい」とお悩みの自治体・事業者の方は、お気軽にご相談ください。