円安とインバウンドの関係とは?客数が増えても飲食店の利益が残りにくい理由と対策
外国人のお客様が増えて店は忙しいのに、月末に数字を見ると利益が思ったほど残らない。円安が続くなか、こうした感覚を持つ飲食店オーナーは少なくないようです。
円安とインバウンドの関係を一言でまとめると、円安は訪日客の増加と消費を支える「追い風」であると同時に、食材などの仕入れコストを押し上げる要因でもあります。そのため、円安で客数が増えても、利益が同じように増えるとは限りません。
本記事では、最新の公的データをもとに円安とインバウンドの関係を整理し、飲食店の利益が残りにくくなる理由と、価格設計・客層設計・仕組み化によって利益を守る具体策を解説します。
【目次】
円安とインバウンドの関係:訪日需要を支える一方、コストも押し上げる
円安は訪日客を増やす力を持ちますが、その影響は飲食店にとってプラスだけではありません。まずは、円安が需要とコストの両方に与える影響を整理します。
円安は訪日需要を後押しする:割安感が客数と消費を支える
円安になると、海外の旅行者にとって日本での宿泊・飲食・買い物が相対的に安くなり、訪日の動機になります。2025年の訪日外客数は4,268万人で前年比15.8%増、初めて4,000万人を超えて過去最高を更新しました*1。訪日外国人の旅行消費額も約9.5兆円(9兆4,549億円)と過去最高です*2。
みずほリサーチ&テクノロジーズの2026年8月の分析では、為替が1%円安になると訪日客数が0.59%、消費単価が0.20%押し上げられると推計されています*3。同分析によると、特に押し上げ効果が大きい欧州・北米・豪州からの訪日客は、円安で生じた余剰資金を買物代に充てる傾向があるとされています。円安の恩恵は、国・地域によって異なることがわかります。
2026年は訪日客の「総数」より「中身」の変化に注目
2026年に入ると、2025年のような全体の伸びは落ち着いてきました。2026年7月の訪日外客数は344万2,100人で、前年同月比0.1%増でした*4。1〜7月の累計は約2,453万人で、前年同期比では1.7%減となっています*5。
一方で、国・地域別の動きには大きな差があります。7月は中国が42万8,200人(前年同月比56.1%減)と大きく減った半面、韓国は89万4,700人(31.9%増)、台湾は76万3,800人(26.4%増)、香港は27万2,500人(54.8%増)と伸びました*5。
訪日客の総数が横ばいでも、来店する客層は入れ替わっています。「訪日客が増えている」という全体の印象と、自店の客層の変化は、分けて見ることが大切です。
円安は飲食店の仕入れコストにも影響する
円安は、輸入に頼る食材や資材の価格にも影響します。内閣府の試算では、10%の円安によって、5四半期後の食料品の消費者物価が1.5%程度押し上げられるとされています*6。
東京商工リサーチによると、2025年の「物価高」倒産は円安局面で最多の767件に達し、業種別では飲食店が唯一100件を超えました。仕入れコストの上昇を価格に転嫁しにくい小規模事業者を中心に増えたとされています*7。
つまり、円安は売上と利益で向きが異なる可能性があります。客数を増やすだけでなく、「1組あたりでどれだけ利益が残るか」を見る視点が欠かせません。
客数が増えても利益が残りにくい3つの理由
IMJでは、円安による客数増に、単価の伸び悩みとコスト増が重なって利益が伸びにくくなる構造を「インバウンド利益侵食サイクル」と呼んで整理しています。ここでは、その3つの要因を見ていきます。
理由1:「割安な日本食」への期待に価格が引っ張られる
訪日客の多くは、円安による割安感を期待して店を探します。その期待に応えようと価格を抑えると、全体の単価が下がりやすくなります。
Googleマップや中国の口コミアプリ「大衆点評」では、同じ業態の店が価格やレビュー数で比較されます。比較しやすい環境のなかで価格を下げると、客数は増えても1組あたりの利益は薄くなります。
また、訪日客向けに下げた価格を日本人のお客様にだけ高くするのは難しく、店全体の価格設計に影響が及びます。
理由2:客層が変わり、単価と回転のバランスが崩れる
2025年の訪日客1人あたりの旅行支出は約22.9万円で、前年比0.9%増にとどまりました*2。訪日客数が15.8%増えたことと比べると、1人あたりの支出は大きくは伸びていません。旅行消費全体に占める飲食費の割合も、約2割です*2。
客層が変わると、ドリンクの注文傾向や食事の時間も変わります。飲酒の習慣は国・地域や個人によって異なるため、ドリンクの売上比率が高い店ほど、客層の変化が客単価に表れやすくなります。
回転率が上がっても、1人あたりの利益が薄ければ、忙しさと利益が結びつきません。回転率だけでなく、客単価と原価率を合わせて見ることが重要です。
理由3:多言語・決済・予約対応のコストが積み上がる
多言語メニューの作成や翻訳、予約・決済ツールの導入には、継続的な費用がかかります。無断キャンセルや決済まわりのトラブルへの備え、外国語に対応できるスタッフの採用・教育も、コストとして積み上がっていきます。
これに前述の食材コストの上昇が重なると、客数が増えるほど利益が出にくい状態になります。
利益を残すための4つの戦略
この構造から抜け出す鍵は、客数を追うことよりも、「来てほしい客層を決め、付加価値で単価を守り、対応を仕組みにする」ことです。
戦略1:ターゲットを「万人向け」から「目的層向け」に絞る
まず、どの国・地域のどんな層に来てほしいかを決めます。たとえば、2025年の1人あたり旅行支出はドイツが約39.2万円、英国が約39.1万円、オーストラリアが約38.7万円と、国によって大きな差があります*2。
発信の場も、客層に合わせて使い分けます。台湾・香港のお客様には台湾向けの日本旅行情報メディア「ラーチーゴー」、中国のお客様には「大衆点評」、幅広い層にはGoogleマップが有効です。
2026年のように国・地域ごとの増減が大きい年は、特定の国だけに頼らない設計が安定につながります。
戦略2:客層・客単価に合わせてメニューを再設計する
全員向けの低価格メニューではなく、利益率の高いプレミアムメニューを1つ用意することから始めてみてください。地域限定の日本酒や希少部位など、日本では身近でも海外の旅行者には特別な体験になる要素が向いています。
なお、国籍によって価格を分けるのは避けたいところです。「プレミアムコース」と「スタンダードコース」、「体験型」と「食事型」のように、内容で選べる設計にすれば、どなたにも公平な形で単価を守れます。
戦略3:多言語・決済対応を「人頼み」から「仕組み」へ
英語が話せるスタッフがいないと回らない状態は、採用コストにもトラブルにもつながります。次のような仕組みに置き換えると、対応コストを抑えやすくなります。
- QRメニュー・セルフオーダー:写真や多言語表記で、説明の手間を減らします
- AI翻訳ツール:想定外の質問にも、その場で対応できます
- 予約時のキャンセルポリシーの明示と同意:無断キャンセルによる損失を防ぎます
- 決済手段の整理:会計時の戸惑いを減らし、現金管理の手間も抑えます
自社だけで進めるのが難しい場合は、IMJのようなインバウンド専門の支援サービスを活用する方法もあります。
戦略4:旅マエ・旅ナカ・旅アトでLTVを高める
長期の利益を考えるうえでは、LTV(顧客生涯価値=1人のお客様が長期的にもたらす利益)の視点も役立ちます。旅の3つの段階で、次のような打ち手を設計します。
- 旅マエ:口コミやSNSで期待値を高め、狙った客層に見つけてもらいます
- 旅ナカ:調理の実演や文化の解説など、体験価値で差をつけます
- 旅アト:帰国後の投稿や口コミを促し、次のお客様への信頼につなげます
事例:客層とメニューを見直して成果につなげた飲食店
ここでは、方向性を切り替えた2つの匿名事例を紹介します。数値はあくまで目安であり、成果を保証するものではありません。
希少部位のコースで客単価を引き上げた関東の飲食店
関東のある飲食店では、訪日客が増えたものの、既存メニューのままでは客単価が下がり続けていました。そこで、訪日客向けに日本でも味わえる機会の少ない希少部位を使った高単価コースを開発し、Googleマップの英語投稿で告知しました。日本人のお客様には従来のメニューを残し、単価を維持しています。
その結果、訪日客の客単価は従来の2倍程度まで上がる傾向が見られました。客層ごとにメニューを分けたことで、全体の利益構造が改善したと考えられます。
多言語情報と口コミ導線を整え、外国人比率が高まった都内の飲食店
都内のある飲食店は、Googleビジネスプロフィール(Google上の店舗情報ページ)が未登録で、外国人の来店がほとんどない状態でした。そこで、多言語での情報整備、メニュー写真20枚以上の掲載、QRコードによる口コミ獲得、週2回の投稿更新に取り組みました。
約6ヶ月後には、外国人の来店比率が15〜20%程度まで高まったとされています(IMJ実績データによる匿名事例)。スタッフの語学力だけに頼らず、情報を仕組みとして整えたことが、対応のしやすさにもつながりました。
よくある質問:円安とインバウンドの関係
円安だと、なぜ訪日客が増えるのですか?
円安になると、海外の旅行者にとって日本での旅行費用が相対的に安くなるためです。みずほリサーチ&テクノロジーズの分析では、1%の円安で訪日客数が0.59%増えると推計されています*3。ただし、客数の増減には円安以外の要因(航空便の座席数、各国の渡航情勢、祝日や休暇の時期など)も関わります。
円安で食材費が上がっています。価格はどう考えればよいですか?
客数を追って価格を抑えるよりも、体験や希少性といった付加価値を加えて単価を守る方法がおすすめです。食材費の上昇は価格に転嫁しにくいため*7、原価率の高いメニューの見直しや、利益率の高いメニューの用意を並行して検討してみてください。
円高に戻ったら、インバウンド対策は無駄になりますか?
無駄にはなりません。為替に左右されにくい高付加価値の体験や、多言語対応の仕組みは、円高になっても店の資産として残ります。むしろ、価格の安さだけで集めた客層に偏っている店ほど、為替の変動の影響を受けやすくなります。
外国人のお客様と日本人のお客様で、単価を分けるにはどうすればよいですか?
国籍では価格を分けず、メニューの内容で分ける方法が現実的です。「プレミアムコース」と「スタンダードコース」のように選択肢を用意し、多言語のメニューやGoogleマップの投稿で案内すれば、お客様自身が選べる形になります。
円安のいま、新規出店は有利ですか?
円安がいつまで続くかは断言できないため、為替だけを前提にした計画は慎重に考える必要があります。出店を検討する場合は、為替の影響を受けにくい高付加価値型のモデルを軸に、リピーターや体験価値も含めた計画を立てておくと安心です。
まとめ:円安は「客数」と「コスト」の両面で見る
円安は訪日需要を支える追い風ですが、食材コストの上昇や客層の変化を通じて、飲食店の利益には別の影響を与えます。客数だけでなく、客単価・原価率・対応コストを合わせて見ることが、円安とインバウンドの時代の経営設計の出発点です。
まず今週は、直近の来店客を国・地域別、客単価別に整理し、原価率の高いメニューを確認してみてください。そして今月中に、来てほしい客層を1つ決め、その層に合わせた発信やメニューを検討しましょう。為替の変動に左右されにくい利益構造を、少しずつ整えていくことが大切です。
インバウンドマーケティングジャパンでは、MEO対策から多言語対応支援、客層別の戦略づくりまで、インバウンド集客を一気通貫で支援しています。「客数は増えたのに利益が残らない」「どの客層に絞ればよいか分からない」とお悩みの方は、お気軽にご相談ください。